タイトル:自然人 2017 春 No.52 電子ブック【サンプル版】
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自然人 2017 春 No.52 を抜粋した電子ブックのサンプルです。
1トンの石を調査富山市科学博物館の主任学芸員・増渕佳子さんは、今年3月に発行される報告書『富山市の身近な自然調査』でこう記している。「私たちの足元には土壌が広がっている。空気や水と同様、当たり前のものすぎて、普段その存在を気にかけたり、ましてや調べてみたりする人は少ないだろう」岩石分野担当学芸員である増渕さんは2013年、富山県常願寺川の下流から上流にかけて約2,000個の石を採集して調べ、その調査結果を図鑑風に収蔵資料目録『常願寺川の石』としてまとめた。路傍の石ならぬ、名もなき河原の石を気にかけ、丹念に調べた労作だ。調査期間は3年、採集した石をリュックサックに詰め込んで、河原から駐車場に停めた車までボランティアの方と一緒に何度も担いで運んだ。1回に運ぶ石の重さは約20キロ、その総量は実に1トンに達したという。採集してきた石は種類によって分類するが、それも骨の折れる仕事だった。「石を見分けるのは本当に難しく、疲れている時は『こんなの全部一緒じゃないか』と思うこともあるんですよ(笑)。でも、たとえ同じ種類の石であっても、よく見るとみんな少しずつ違う。人間と同じように顔つきが違うんです」一見、どれも同じに見えた石をよく観察し、たとえば「花崗岩」や「安山岩」などと種類を特定して名前を付けると、不思議なことに愛着が湧いてくる。『常願寺川の石』の編集中、増渕さんは「石に興味を持つ人なんて100人もいないだろう」と考えていたが、いざ発売してみると富山県外からも購入する人がおり、初版は瞬く間に完売し、増刷となった。いまではこれをガイドブックにして常願寺川に石を拾いに行く人も少なくない。石はコレクションの対象となるだけではない。「石を調べることで分かることはたくさんある」と増渕さんはいう。「私は火山を専門に研究していますが、石や地層を調べることで、数千年?数十万年前に起きたことがまるで昨日起きたことのように分かり、ひいては噴火や土石流など自然災害を予測し、防災にも役立つんです」「玉ぎょくせきこんこう石混淆」あるいは「石ころ」と言われるように、石は「つまらない物」の代名詞である。しかし、増渕さんのように目を凝らし、耳を傾けて石のメッセージを読み取る力を身につければ、寡黙な石ころは雄弁に語り出す。収集した石は整理され、博物館の標本となる博物館で働けることがうれしくて仕方ないというたくさんの写真を使った紙面現在、調査中の「神通川の石」。調査結果は3月中にまとめられる予定だ労作『常願寺川の石』を眺める増渕さん40