タイトル:自然人 2017 夏 No.53 電子ブック【サンプル版】

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概要

自然人 2017 夏 No.53 を抜粋した電子ブックのサンプルです。

自然と人が共生する日本一美しい山白山を御神体とする白山比咩神社は崇す神じん天皇7年(紀元前91年)の創建と伝わり、白山信仰は2000年以上前から続いています。白山開山からの1300年は、人間が豊かな自然に足を踏み入れてきた歴史と言えるかもしれません。とりわけ白山が国定公園(のちに国立公園)に指定された昭和30年(1955)以降、数多くの登山客が押し寄せ、白山は一時、「ゴミの山」と化しました。しかし昭和40年代になると、白山室堂の管理人の呼びかけに、日本野鳥の会の創立者・中西悟ご堂どう氏や白山を描き続けた日本画家の玉井敬けい泉せん氏、『日本百名山』の著者・深ふか田た久きゅうや弥氏らをはじめ、数多くの人々が賛同して「ゴミの持ち帰り運動」が始まります。白山からはゴミ箱が撤去され、その代わり登山者にゴミ袋を配布し、「自分が出したゴミは自分が持ち帰る」ようになったのです。今では全国の山々で見られるこうした運動の先駆けとなるものでした。そして今、エベレストや富士山の清掃活動に取り組むアルピニスト・野口健さんが、白山を「これほど美しい山は他にない」と絶賛するまでになりました。私自身、白山は「日本で一番美しい山」だと思っています。その一方で、白山は観光拠点という重責も担っています。「自然との共生」と「観光開発」は二律背反する難しい課題ですが、人々の手によって美しさを守ってきた白山は、これを両立させた稀有の山とも言えるでしょう。「有ることが難しい」から「ありがたい」人間の一生は地球の生命の歴史36億年からいえば、ほんの一瞬に過ぎません。とはいえ、そんな一瞬であっても心掛け次第で未来は良くもなれば、悪くもなります。人間が電気を日常的に使うようになってせいぜい100年でしかありませんが、私たちは電気を得ることで多くのものを失いました。たとえば不夜城の下界にいると、満月と新月の夜の区別がつきません。しかし御来光を仰ぐために白山の頂上に向かって歩いていると、新月と満月の夜ではまったく明るさが違うことが分かります。このように白山は、普段鈍化しがちな自然に対する感性を高めてくれるのです。自然は「ありがたいもの」です。けれど「ありがたい」は「有り難い」と書きます。「有ることが難しい」、つまり、「かけがえのない貴重なもの」、それが自然なのです。四大文明が大河の近くで興ったように、文明は水によって栄えました。しかし今日、世界では「水道水は飲めない」のが常識です。その点、我が国はたいへん恵まれています。特に石川県では、白山からもたらされる豊かな水が川から海へと循環するなかで、自然界に生きる多様な生物を育むとともに、私たちの生活や産業を支えています。白山の自然を次なる1300年に向けて伝えていくために、自然に対する感性を研ぎ澄ましていくことが大切です。神社の境内にある白山霊水は延命長寿の霊水として名高い。白山水系の伏流水で、誰でも汲んで持ち帰ることができる村山宮司は白山比咩神社のホームページでコラム「神道講話」を連載。自然や環境問題に関する話も多いインタビュー/山崎浩治写真/今寺学全国に約3000社ある白山神社の総本宮・白山比咩神社の村山和臣宮司に、節目の年に見つめ直してみたい白山からの恩恵についてお話をうかがった。31