タイトル:自然人 2017 夏 No.53 電子ブック【サンプル版】

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概要

自然人 2017 夏 No.53 を抜粋した電子ブックのサンプルです。

盆を過ぎた頃夕闇もせまり、そろそろ山に面した土間の戸を閉めようと手を伸ばしたときだった。真鍮の手掛けをさぐる手のひらに何か冷たいものが触った気がする。気のせいかな?いや何かしめった棒状の……。柔らかくて湿った感触は確かだった。うーん、妖しい。見えないけれど扉の向こうに気を感じる。たいていこの手の勘は鋭い方なのだ。一家の主(害虫担当)としてはやっぱり見届けておかないと。思い切って外に出る。と、擂り粉木のようなものが唐突に建具の枠に貼付いていた。15cmもあるそれはどうやら軟体動物らしい。身を固くしながら見ていると、実にゆっくりと先端から二本の突起が生えてきた(私に驚いて引っ込んでいたのだ)。なんと巨大なナメクジだったのだ。「日本原産のナメクジの一種で10cmを超える大型種。山間部、森林内に棲みキノコを食べる。冬には大木のうろの奥深くで越冬する」というヤマナメクジ。塩でもかければ!と嫌われ者の代名詞。でも滑りが少なくドライなせいか、気持ち悪さは幾分マイルドかもしれない。それより退治するのにどれだけ塩が必要なのかは未知数だ。分厚い体に対して極端に短い触角がアンバランスでユーモラスで憎めない。普通のナメクジとは違う堂々たる姿に思わず「ヤマナメクジさん」とさん付けにしてしまう風格がある。翌朝まだいるかな?と見に行くと、どこから入ったのか土間の中に移動していた。いくらなんでも一緒に住むのは困るので棒で外に出そうかな。でも考えてみれば先住民は彼らで、あとから来て里山に家を建てたのは私たちの方だよねぇ。ふいに言葉が通じそうな気になって、「おねがい、森に帰って」とナウシカ気取りでお願いしてみる。するとおもむろにヤマナメクジさんは重そうな身体をずしーずしーと裏山に帰って行ったのだ。雑木を伐るとキノコが出やすくなると言う。コケとりに籠を背負って歩くと籠目から胞子が撒かれると聞いた。そんな里山の人と自然のかかわりをキノコ好きのヤマナメクジさんが案内するお話ができたら楽しいなと思った。そういえばつま先に穴の空いた芥子色のタイツがあったと思いつき、早速人形を作った。自然の不思議さ、昔ながらの知恵、山の主と伝えていけたら。萩のゆきまるやま組代表能登の里山で考えた。連載・○○で考えた。里山劇場で子ども達に人気の「ヤマナメクジさん」体色は淡い黄褐色で大触角が短い。ダイセンヤマナメクジの仲間かはぎのゆき(デザイナー、能登いきものマイスター)東京で生まれ育ち、アメリカ暮らしを経て11年前に能登へ移住。土地に根ざした学びの場『まるやま組』を主宰。*まるやま組bloghttp://maruyamagumi.blog102.fc2.com/お森へ向かうヤマナメクジ。後ろ姿にもどこか存在感がある54